日本財団ジャーナル

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コロナ禍における在宅医療・看護現場のいま。現場に安心をもたらしたネスレ日本の社会貢献

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在宅看護センターを起業する看護師の育成研修と起業の支援を行う笹川保健財団会長の喜多悦子(きた・えつこ)さん
この記事のPOINT!
  • コロナ禍で在宅医療・看護の重要性が浮き彫りになった
  • ネスレ日本の支援により必要な時に必要な物資が支給され、在宅看護サービスが安定して提供できるように
  • 安心・安全な社会づくりには、社会課題を自分事として捉え、日々意識して行動することが大切

取材:日本財団ジャーナル編集部

いまだ予断を許さない状況が続く新型コロナウイルス感染症の拡大。そんなコロナ禍で浮き彫りになったのは、在宅医療・看護の重要性である。2022年1月5日現在、政府が従来の陽性者を全員入院させる措置を見直し自宅療養などを活用する方針を示したことで、ますますその需要は高まっている。

そんな中、世界最大の食品メーカー・ネスレグループの日本法人であるでは、日々最前線で活動する医療従事者を支援するため、「キットカット」全製品の売上金の一部を日本財団へ寄付。日本財団ではその寄付金をもとに、感染対策に有効な医療機器や消耗資材の配布を、全国111カ所に点在する日本財団在宅看護センターと救急医療病院を対象に行った。

今回は、日本財団在宅看護センター起業家育成事業を手掛ける会長の喜多悦子(きた・えつこ)さんと最前線で闘う在宅看護センターの管理者の方々、ネスレ日本株式会社コンフェクショナリー事業本部長・執行役員の槇亮次(まき・りょうじ)さんに話を伺い、コロナ禍における在宅医療・看護現場の課題を明らかにし、感染再拡大に備え私たちに何ができるかを探りたい。

超高齢社会に求められる在宅医療・看護

高齢化が急速に進む日本。「2025年問題※」が間近に迫り、安心して生活することができる療養場の確保が切迫した課題となっているいま、在宅医療・看護が重要視されている。

  • 後期高齢者(75歳以上)が急増する2025年までに起こりうる、さまざまな問題の総称

笹川保健財団が2014年から取り組む日本財団在宅看護センター起業家育成事業は、世界に先駆け超高齢社会に突入した日本社会の健康を守るために立ち上げられた。10年程度の経験を持つ看護師を対象に、在宅看護センターを経営するために必要なスキルと地域の医療や介護関係者と連携するために必要なスキルを身に付けるための研修を実施している。

なぜ看護師が対象なのか。患者に対して診察や治療を行うのが医師である以上、経営スキルや地域連携のためのスキルは医師に提供する方が良いように思える。

しかし、もともと医師として国内外の現場で治療に当たった喜多さんは、高齢者が多くなった日本の健康をどう守るかを熟考した結果「人々に近い存在でいられる看護師も、経営者として必要なのではないか」という考えに至ったという。

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日本財団在宅看護センター起業家育成事業について説明する喜多さん

ただ看護師を取り巻く現状は厳しい。そもそも看護師の仕事は、原則として医師の指示を得てから行われる。そのため看護師は医師の指示待ちになってしまうことが多い。

「もちろん、医師の指示を得なければならないことはたくさんあります。ただ同時に看護師の判断のみでできることが多いのも事実です。例えば心臓疾患を持つ患者さんの食事のオーダー、食事をするときの姿勢、食事指導の内容などは看護の分野でも考えられることです。しかし、現状は医師の指示のもとで行われてしまっている。私はもっと看護師さんに医師の指示なくできることがあってもいいのではないかと思っていますね」

喜多さんが日本財団在宅看護センター起業家育成事業に注力する理由、それは看護師を取り巻く現状を打破し経営者として看護師を育てることが、その先にあるより良い医療の実現につながると信じているからだ。

コロナ禍で浮き彫りになった現場課題

喜多さんがコロナ禍における在宅医療・看護の現場で課題に感じたのは、必要な資材が必要とされるところにきちんと補給する仕組みや体制がなかったことだという。

「コロナ禍で資材不足が起きた時、最初の頃はまだみんな余裕があったので100円ショップなどで使える道具や資材を集めていました。こちらからも使えそうな道具を補給することは、さしあたってできた話だと思います。ただ補給できる資材があっても必要としているところまで届ける仕組みがなければ意味がないと気付きました。大事なのは補給することではなく、本当に必要なものを必要なだけコンスタントに補給できる体制だったんです」

また届けられたとしても、量が多くなるほど備蓄するためのスペースが要る。

「先々のことを考えたら、各地域に備蓄の拠点をつくりたいと考えています。日本は災害が多い国でもあるので、コロナだけではなく災害時にも使えるものを備蓄しておくことも必要だと思っています」

コロナ禍で医療に必要な資材が不足し、販売が再開しても価格が高騰してしまった時期に支援の手を差し伸べたのが、ネスレ日本だ。日本財団への寄付を通して全国の在宅看護センターや救急医療病院を対象に、感染対策に有効な医療機器や消耗資材を配布した。

今回の支援で特徴的だったのは、各々で必要な医療機器・消耗資材を選択、購入できるようにカタログ形式を取り入れた点である。実際に配布された在宅看護センターは、今回の支援でどのような効果を感じたのか。3拠点の代表に話を伺った。

織訪問看護ステーション
代表理事 天沼美智子(あまぬま・みちこ)さん

「ステーションでは当時、マスクや手袋、エプロン、ガウンなどが不足し、あらゆるものを代用して使う状態が続いていました。なので、カタログからは手袋、N95マスク、袖付きビニールエプロン、足カバーといった個人防護具を中心に選択。またステーションに空気清浄機の導入を検討していたところだったので、これを機に購入しました。

感染対策用品が十分に供給できるようになったことで、スタッフと利用者の安心につながったと感じています。2021年2月、群馬県でもっとも高齢化率の高い桐生市に開業したばかりの当ステーションにとって、今回の支援は非常に有難いものでした」

個人防護具が届いたことで安心して在宅看護が提供できるようになったという織訪問看護ステーション。写真提供:織訪問看護ステーション

在宅ケアステーション石神井
代表取締役 松井典子(まつい・のりこ)さん

「当事業所の開業が個人防護具の不足・高騰時期と重なり、消耗資材の確保に難渋し、私どもの活動に支障が出かねない状況でした。そのためカタログからは、感染防止用としてN95マスク、エプロン、口腔ケア用品と、N95マスクの除菌用に紫外線除菌庫を選択しました。

コロナ禍の訪問看護は、いままでとは異なる緊張感に溢れています。ただそれでも事業所に十分に感染対策用の消耗資材の用意がある状態は、スタッフの心に安心と余裕をもたらしてくれています。

今回の支援は、コロナ禍における前向きな決断にもつながったと感じています。実際に当事業所のある東京都練馬区で第6波に備え自宅療養者の支援の枠組みがつくられた際、自信をもって協力することを決断できました」

在宅ケアステーション石神井にて紫外線除菌庫にてN95マスクを除菌する様子。写真提供:在宅ケアステーション石神井

訪問看護ステーション黒衣
代表理事 岡良伸(おか・よしのぶ)さん

「幸い、当事業所では業務に支障をきたすような大きな問題は起こりませんでした。ただ、いつ感染者が出るのかという不安や危機感は常にあり、高騰した感染防護具の調達、職員個々への感染対策指針と教育、3密を避けるための環境調整にも大変苦労しました。

今回、カタログから選択したのは、消耗頻度が高いプラスチックグローブ、マスク、使い捨てエプロン、職場内で3密を避けるためのプラスチックパネル、ご利用者さまに直接提供する口腔ケア物品などです。

これらが行きわたったことで、個々のスタッフにかかっていた負担や不自由さを取り除くことができました。また訪問回数が多いご利用者さまのご自宅に購入したプラスチック手袋やエプロンを箱ごと設置させていただいたことで、スタッフの業務効率、ご利用者さまの経済的負担の軽減につながっています」

医療機器、資材が十分に供給されたことでスタッフの負担が軽減したという訪問看護ステーション黒衣。写真提供:訪問看護ステーション黒衣

笹川保健財団・喜多さんも、ネスレ日本からの支援について感謝の言葉を述べる。

「この度は医療機器・資材をご支援いただき誠にありがとうございます。事業所によって必要なものや不足しているものが異なる中、カタログ形式で選べるようにしていただいたことで、自分たちにとって本当に必要と思えるものを選ぶことができたという声が多数届いています。また資材が想定より早く届いたという声も耳にしており、感謝の気持ちでいっぱいです」

日々の意識と行動が安心・安全な社会をつくる

ネスレ日本の社会貢献活動は、コロナ禍に限ったことではない。そもそも、母体となるネスレ(スイス)の創業自体が、1860年代当時、栄養不足による乳幼児の死亡率の高さに心を痛めた創業者アンリ・ネスレが、安全で栄養価の高い乳児用乳製品を開発したことがきっかけとなる。

以来、社会とネスレ、双方にとっての価値をつくり出す「共通価値の創造」を念頭に、食の持つ力で人々の生活の質を高めるためのさまざまな事業に取り組むと共に、ネスレ日本では2007年の新潟県中越沖地震や2011年の東日本大震災、平成30年7月豪雨など大規模災害時において積極的に支援活動を行なってきた。

ネスレ日本が日本財団と関わりを持つようになったのは、2016年の熊本地震でのこと。「キットカット」の売上金の一部を寄付し、被災地の農業分野を支援するというものだった。今回の医療機器・消耗資材の配布支援も、そのつながりから生まれたものだ。

「何とかして医療従事者の皆さんを私たちで応援したいという思いはありました。ただ病院単体にアプローチはできても、医療従事者皆さんへのアプローチ方法が見つからなかったんです。そこで日本財団さんに相談して、今回の支援を実施することができました」

ネスレ日本の執行役員でコンフェクショナリー事業本部長も務める槇さん

そう話す槇さんに、支援に対する在宅看護センターからの反応や声を聞いた感想を伺った。

「まず率直に、今回の支援をやって良かったなと思いました。ただ同時に私から『ありがとう』と言わせていただきたいです。なぜかというと、今回の支援には多くの人が協力してくださっているからです。支援に至るまでの道筋は、自分の周りにいる方々につくっていただいたものなんです。ですから、私からも感謝の気持ちを伝えさせてください。本当にありがとうございました」

新型コロナウイルスが猛威を奮い始めて2年が過ぎようとしている。いまもまだウイルスの脅威と隣り合わせの時代を生きる私たちが、安心・安全に暮らせる社会をつくるためにできることは何だろう?

「まずは得た情報をそのまま信じるのではなく、本当にそれが正しいのか考えて取捨選択することが重要だと思います。また自分とは遠い場所の出来事を他人事だと思わずに、自分事として一度考えてみることも大事です。考えたところで1人の人間ができることは知れていますが、考えることで行動が変わることもあります。こうした意識を日々持つことが、安心して暮らせる社会をつくっていくのではないでしょうか」と喜多さん。

槇さんも「私どもが提供する食品と同じで、常にその時の安心・安全とは何かを考えて、日々を積み重ねていくことが大事なのかなと思いますね。日々の積み重ねは決して大きなものではありませんが、少しずつでも毎日続けていれば大きな違いになるはずです」と話す。

新型コロナウイルスとの闘いの終わりは、まだ明確に見えていない。だからこそ、油断せずに安心・安全な暮らしを意識することが大切で、一人一人の「感染しない、感染させない」行動の積み重ねが、未曾有の有事を乗り越える大きな力となるはずだ。

撮影:永西永実

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